現代の都市には、少子高齢化や外国人労働者増加といった人口構造の変化、シェアやインクルージョンといった価値観の多様化、自動運転や5Gといったテクノロジーの進化など、パラダイムシフトの波が押し寄せています。また、本ラボを設立した2020年には、世界中が新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に見舞われることとなり、オンラインでのコミュニケーション機会が充実する一方、リアル空間における住まい方、働き方が問い直されています。こうした不確実性の高い社会では、予測できる未来を前提とした価値創造だけでは都市の価値が低下してしまう恐れがあります。これを未然に防ぎ、未来の新産業の創出や持続可能な営みの醸成につなげるために、デジタル革命を経ながら進化していく都市の価値の再定義を行ったうえで、ビジョン構築に取り組むことが求められます。
東京大学はこれまで、新たな時代への社会変革を駆動するプラットフォームとして、科学、工学、人文学、社会科学を含む広範囲にわたる学術的資源を最大限に活用し、SDGsの達成など社会課題解決への貢献を目指してきました。また、新しい社会・経済システムの創造とより良い未来社会を実現するため、知識集約型社会における産業エコシステムのハブとなり、企業との産学協創の取組みを重ねています。
一方、三井不動産は都心居住のニーズに対応したタワーマンションの供給、街づくりを支える資金調達への新たな道を切り開いた不動産証券化の推進、用途や機能が複合したミクストユースの街づくり、働き方改革を見据えたシェアオフィスの展開など、次の時代に求められる価値をいち早く予測して創造してきました。さらに、業界団体や市民組織とともに法制度の改正やルール環境の整備、価値の担い手となる人材の育成も先導してきました。
東京大学と三井不動産は両者の取り組みを融合し、都市のビジョン再構築、テクノロジーの社会実装を通じたイノベーション創出、スタートアップエコシステムの拡充、そして人材育成を通して、不確実性の高まる社会においても「経年優化※する都市」、つまり、時間とともに価値を高める都市づくりを目的とし、「三井不動産東大ラボ」を設置します。本ラボは東京圏をメインフィールドとし、afterコロナを見据えたビジョンドリブン型の将来像を描いていきます。
東京大学が抱える知(ナレッジ)と三井不動産が創造してきた場(フィールド)を活用し、下記の4つのアウトプットを設定して、共同研究および情報発信を進めます。
(1) 都市の本質的価値の再定義
afterコロナの都市の本質的価値の提唱や評価指標開発を行い、東京圏の未来ビジョンを描きます。ビジョンを体現する都市空間像とともに、その持続可能性を高めることにつながる不確実性に対応する都市計画のあり方を提案します。
(2) これからの「都市の姿」と都市をつくる方法論の提案
東京大学の学際的な研究トピック、そして三井不動産の先進的まちづくりを担うグループ社員や関係主体を最大限活用しながら、デジタル技術・サービスの社会実装を通した、新たな都市開発およびマネジメントモデルの構築を行います。さらに構築したモデルを、法制度や地域ルールに位置づけ、誰もが暮らしやすいまちとして成熟させるための条件を明らかにします。
(3) スタートアップエコシステムの拡充
東京大学と三井不動産は、スタートアップエコシステム拡充への取り組みを進めてきました。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)がもたらしたスタートアップエコシステムにおけるインキュベーションの在り方の変容、特にデジタル技術とリアル空間との組み合わせに着目し、afterコロナにおけるインキュベーション施設の価値を最大化する施策を明らかにします。
(4) 「経年優化する都市」づくりを担う人材育成
次代の価値創造や経年優化の担い手となる人材育成を目的とした取り組みを進めます。海外大学との連携も視野に入れ、社会人向けの都市型イノベーションハブを整備していきます。
※ 「経年優化」とは、三井不動産が目指す街づくりの理念であり、「時を経るにつれて成熟し、価値を高めていく」という考えを指します。