錯覚技術WG

限定空間における五感提示VR技術の研究

研究リーダー
東京大学 情報基盤センター 教授:雨宮智浩 /
三井不動産 イノベーション推進本部 産学連携推進部 統括:藤塚 和弘

メディア行動の変化によって消費のあり方が変わる中、不動産業界にもこうした変化への対応が求められています。そこで、三井不動産の藤塚が目をつけたのが、「錯覚技術」によるコンテンツのリッチ化。物流施設やホテルなど制約の多い限定空間で働く人や利用者に、錯覚技術を使ったリラクゼーション体験を提供すべく、東京大学の雨宮教授と連携し、触覚分野を中心に基礎研究を行っています。

物流施設やホテルなどの限定空間において、錯覚技術を使ったリラクゼーション体験を提供する
  • 藤塚 和弘

    三井不動産
    イノベーション推進本部
    産学連携推進部

  • 雨宮 智浩

    東京大学
    情報基盤センター

錯覚技術をリラクゼーションに応用し、現場のニーズに応える

藤塚
藤塚
メディア行動の変化は、買い物や旅行のあり方にも大きな影響を与えています。ショッピングモールやホテルを展開するわれわれ三井不動産も、こうした変化に対応していくとともに、ビジネスチャンスを生かしていく必要があります。そんな中、活用できそうだと思ったのが、雨宮先生が研究されている錯覚技術でした。空間的な制約のあるホテルの個室や物流施設の休憩場所で、利用者や現場で働く人たちの満足度を上げるために錯覚技術を使えないかということで、先生に相談させていただいたのが2022年でした。
雨宮
雨宮
最初に藤塚さんとお話したとき、VRがリアルな土地や空間を提供する不動産業を代替していく可能性についても言及されていましたよね。そういった可能性も含めて、現在研究が盛んな視聴覚分野のみにとらわれず、現場の人たちのニーズに応える新しい錯覚技術を研究していきたいと。その着眼点のオリジナリティーに驚きましたし、とてもいいテーマをいただいたなと感銘を受けました。
藤塚
藤塚
先行して進めている研究の一つに「水を使わずに濡れている錯覚をつくる」というのがありますが、これは、当社が開発するある不動産部門の要望を受けて始まった研究でしたね。
雨宮
雨宮
その施設では「水を使えない」といった制約があるので、独自の錯覚技術を使って、水面に触れる感覚を作り出そうと、実際にプロトタイプを作って実験を進めています。制約条件をクリアするにはどんな錯覚技術が必要か、双方意見を出し合いながら進められるのは、今回の研究の面白いところですね。

触覚分野をリードすることで、VRの可能性を広げる

藤塚
藤塚
先行しているもう一つの研究では、快感をもたらす仕組みにも着目していますね。
雨宮
雨宮
耳をうまく刺激することができれば、制約がある環境でも手軽にリラックス効果が得られるのではないか、という仮説を立て、基礎研究を行っています。どちらの研究も新規性があるだけでなく、「限定された空間でもリラックスできる環境を整えたい」という現場のニーズに根付いているので、非常にやりがいがありますね。VRというと、世間一般では「ゴーグルをかけてゲームをやっている」くらいのイメージを持たれることが多く、実用化されていない技術も多い分野なので、錯覚技術を社会に還元できる今回のような研究はとてもありがたいです。
藤塚
藤塚
2023年の夏には、国際会議の「SIGGRAPH」や「日本バーチャルリアリティ学会大会」にも参加させていただいて、CGやVRの分野で多種多様な研究が行われていることに非常に刺激を受けました。VRでいうと、視聴覚分野はアメリカを筆頭に研究がかなり進められていること、触覚や嗅覚などの分野はまだまだ研究の余地があることがわかり、今回の共同研究にかける思いも一段と深まりました。

「SIGGRAPH 2023」会場の様子(2023年8月6日撮影)

雨宮
雨宮
藤塚さんのおっしゃる通り、視聴覚の分野だと、VRに適したモニターやスピーカーがすでに開発されているのに対して、触覚の錯覚技術は今のところバイブレーションくらいしかなく、遅れをとっています。また、その場の空気感や人の温もりを伝える技術についてもまだまだ研究が進んでいないので、今回の共同研究が寄与できる余地はかなり大きいと思います。
藤塚
藤塚
以前、雨宮先生からお聞きした中で、「VRの研究は五感それぞれが分野として分かれているけれど、人間の行動や気分をうまく変化させるためには、複数の五感を組み合わせる必要がある」というお話が特に印象的でした。
雨宮
雨宮
音声の話で例えると、音がだんだん小さくなっていった場合、変化に気づきやすいのは聴覚ですが、音がどこから鳴っているかについては、視覚の方が気づきやすいと。そういった五感の特性を、取捨選択してうまく組み合わせれば、弱点を補い合ったり、感覚を強めたりできますよね。そのためにはやはり、研究が遅れている分野の発展が必要です。今回の研究では、そうした分野を先導して、錯覚技術を複合的に進化させる成果を出していきたいですし、「今までにない新しい研究」で終わらせず、社会のニーズや課題に合わせながら、さらに洗練化させていきたいと考えています。