渋滞学WG

未来予想誘導アルゴリズムによる車の渋滞の解消

研究リーダー
東京大学 大学院工学系研究科 教授:
西成 活裕 /
三井不動産 イノベーション推進本部
産学連携推進部 主事:前川真紀代

三井不動産のアセットの一つ「ららぽーと富士見」の駐車場渋滞を解消すべく、「渋滞学」を専門とする東京大学の西成教授と三井不動産の前川らが連携し、実証実験を行っています。画像認識A Iなどを使って集積したデータから、駐車場の未来の渋滞状況を独自のアルゴリズムで予測。デジタルサイネージによる車両の誘導や館内滞留施策によって駐車場利用者の行動変容を促し、快適な駐車体験を通じた顧客満足度向上を目指しています。

アルゴリズムによる渋滞予測と少人数の行動変容で、駐車場渋滞は解消できる。30分後の「未来予測」が可能にするものとは
  • 前川真紀代

    三井不動産
    イノベーション推進本部
    産学連携推進部

  • 西成 活裕

    東京大学
    大学院工学系研究科

三井不動産のアセットをフィールドに、施設の全体最適を考える

前川
前川
全国に20カ所ある大型ショッピングモール「ららぽーと」は、私たち三井不動産が展開する商業施設です。ららぽーとは、リージョナル型のショッピングセンターなので、車で来場される方も多く、駐車場の渋滞対策は喫緊の課題です。施設竣工前から綿密に計画しているものの、共同研究の話が持ち上がった当時、「ららぽーと富士見」では渋滞に関する課題があり、その対応を検討しているところでした。西成教授は、車のみならず、人、物流、アリなどの生き物までをも対象に、「渋滞」現象のメカニズムを幅広く研究されており、今回のような社会実装にも関心をお寄せいただいていたので、本プロジェクトへのご協力を仰ぎました。
西成
西成
渋滞の研究を30年以上やってきましたが、共同研究という形で現場の方と話し合いながら包括的に進められる研究は、今回がほぼ初めてです。これまではコンサルタントとして渋滞解消施策の一部分のみを委託されることが多く、任された施設の管理元が部分ごとに分かれていることも多かったので、施設の全体最適を考える機会はあまりありませんでした。今回のように、共同研究として実際の現場で実験的な施策を行ったり、施設全体のことを一緒に考えたりできるのは、三井不動産のアセットがフィールドだからこそですし、現場の知恵をお借りできる貴重な場だと感じています。
前川
前川
本研究は2022年から開始しましたが、まずは、渋滞の原因を探すところから始まりましたね。
西成
西成
ららぽーと富士見には、11カ所の駐車場と南・北の2カ所の出口があります。AIカメラを駆使して、車両の入出庫の状況や国道への導線などを確認したところ、入庫する車と出庫する車の合流地点がボトルネックになっていることが判明し、出庫する車の通るルートを適切な配分で誘導する必要があることが分かりました。また、特定の地点での車両の通過数を未来予測して、先回りして誘導するためには、現状の正確な把握が必要です。駐車場警備の方の知恵と画像認識AIを組み合わせて、通過した車の台数を数えていくうちに、時間帯や出口ごとの渋滞状況とピークなどの具体的な数値も見えてきました。
前川
前川
そうしたデータを活用することで、今回独自に開発した「未来予測誘導アルゴリズム」では、まず、5分先の渋滞状況の予測が可能になりましたね。
西成
西成
出庫台数が1900台までなら、渋滞が予想される地点を車が通過しないよう、5分後の渋滞状況をデジタルサイネージに表示して誘導することで、渋滞を解消できることが分かったというのが、2022年の成果です。

駐車場内分岐点サイネージ誘導施策の効果

「人の行動変容」により、車の誘導では解消できない渋滞を緩和する 

前川
前川
適切に車両を誘導してもキャパシティ的に限界なのであれば、次の策は「人」の誘導なのでないかと、2023年からはアプローチするターゲットを変えました。曜日、時間帯、天気などの条件パターンから渋滞を予想し、そのピークを分散化できるよう、お客さんの出庫時間をずらすための行動変容を促す施策を講じようという話になりました。
西成
西成
2022年は5分先の未来予測で精一杯だったところ、2023年上半期には10分後、下半期にはついに30分後の渋滞予測が可能になったというのも背景にあります。30分の猶予があれば、利用者の方が駐車場に行く前に、館内に留まっていただくための施策を行うことができるので、ピークの出庫台数をさらに減らせるのです。

未来予測誘導アルゴリズムを用いた出口渋滞予測や駐車場満空情報表示策

前川
前川
実際に2023年の年末の繁忙期には、ららぽーと富士見で2か月間、館内放送やリワードを活用し、館内滞留を促す実証実験を行いました。結果として、実際にお客さまの行動変容が起こり、渋滞解消につながったのは大きな進歩でした。
西成
西成
館内放送やポスター掲示など、三井不動産グループのみなさんが工夫を重ねながら頑張ってくださったおかげです。小さな働きかけでも人の行動は変えられる、ということが分かった瞬間でしたね。渋滞解消の研究は、物ではなく、制御の難しい人間が相手です。そのため、今回得られた「人の行動変容」のノウハウは、他領域の渋滞解消にもつながっていくと思います。
前川
前川
先生がおっしゃるように、今回の研究の先にあるのは、渋滞そのものではなく、「お客さま」です。最終的には、ららぽーとにいらっしゃった方々に「ここにお買い物に来てよかった」と思っていただけるよう、渋滞を解消するだけでなく、現場の課題解決に直接結びつく実証実験を行い、良い結果につなげていきたいと思っています。