自律飛行制御WG

都心型ドローンフィールドの実装研究

研究リーダー
東京大学 大学院工学研究科 教授
土屋 武司 /
三井不動産 イノベーション推進本部
産学連携推進部 統括 藤塚 和弘

2024年秋、物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」内に、都心型のドローンフィールドが生まれます。この施設の整備に取り組むのが、三井不動産・藤塚らと、航空工学を専門とする東京大学・土屋教授。GPSの届かない環境下での飛行システムや、複数のドローンが利用できるドローンポートの実装を通して、人とドローンの共存を推し進めます。

都心型のドローンフィールドを整備し、人と共存できるドローンの可能性を探求する
  • 藤塚 和弘

    三井不動産
    イノベーション推進本部
    産学連携推進部

  • 土屋 武司

    東京大学
    大学院工学系研究科

23区内に屋内ドローンフィールドを作り上げる

藤塚
藤塚
そもそもの始まりは、別の研究でドローンの制御方法や法律などについて、土屋先生にお話を伺ったことからでしたね。その後、三井不動産が日鉄興和不動産と共同で手掛ける都内最大規模の物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋(以下、MFLP)」の着工が始まり、その一部をR&D区画として、本格的なドローンフィールドを作ることとなりました。この施設で土屋先生の知見をぜひ活用いただきたく、共同研究を依頼しました。
土屋
土屋
ドローンは敷地があれば自由に飛ばしていいというわけではなく、東京23区内のような人口集中地区では飛行許可が必要なので、これまでは本格的な実験を行う際には、地方まで足を運んでいたんですね。ですので、都心に近い場所に、ドローンをある程度自由に飛ばすことができる屋内実験施設が生まれるというのは、とてもありがたい話だなと感じました。

MFLP・LOGIFRONT東京板橋のイメージ(竣工は2024年9月末を予定)

GPSの届かない場所でドローンを飛ばすには?

藤塚
藤塚
目下の研究課題は「非GNSS※下での飛行」と「ドローンポートの標準化」ですね。 これらがドローンフィールドを整備していくための要となってきそうです。
土屋
土屋
まず「非GNSS下での飛行」というのは、ドローンは、一般的にGPSによって位置を特定することで、安定的に飛行することができます。しかし、ドローンの用途が屋内もしくはトンネルなど、GPSによる位置情報をキャッチできない場所に広がっていく中で、そうした環境下でもドローンを安定的に飛行させるための仕組みが必要になってきます。そこで、GPSの代わりにセンサーやカメラを使ってドローンの位置を特定するためのシステムを、MFLPの施設内に実装させていきたいと思います。
藤塚
藤塚
MFLPには、災害時を想定したドローンによる物流機能も持たせたいと考えています。この施設は、荒川につながっている新河岸川沿いにあるので、災害の際に道路が寸断されても、ドローンを使えば川の上を飛行することで一定の物流網を維持することも想定できます。ただし、ところどころで橋をくぐる際にドローンが位置を見失う可能性があり、非GNSS下での飛行技術が活きてきます。

「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」におけるドローン関連の敷地配置イメージ(計画段階)

土屋
土屋
災害時には、孤立地帯に薬などの物資を届ける方法として、すでにドローンが活用されるようになってきました。MFLPのような防災時の拠点となる場所でこうした研究を進めておくことで、もし東京を中心に巨大地震が起きた際、ドローンがいっそう重要な役割を担う可能性は高いのではないでしょうか。
※GNSS…GPSをはじめとする衛星測位システムを総称した、全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System)の略称。

複数台のドローンをネットワーク化させる

藤塚
藤塚
ドローンの用途は、建物の外壁打診検査にも広がりつつあるようです。これまでは、足場を組んで、人がハンマーで叩くことで検査してきましたが、これがドローンによる全自動の赤外線検査に置き換われば、大きなビジネスチャンスになるのではないでしょうか。
土屋
土屋
ビジネス上のネックとなっているのが、主にコストや安全性の問題です。現在のように1機のドローンにつき1人の操縦者がつく形だと、多くの人件費がかかってしまいます。一方、1人が複数のドローンを監視しながら飛ばすことは技術的には可能ですが、安全面にまだまだ課題があるんですね。ドローンが離発着や充電を行うためのポートについても、1機を対象にしたものは整いつつありますが、将来的に複数のドローンが飛び交うようになってくると、さまざまな種類のドローンを迎え入れる必要があります。そこで、「ドローンポートの標準化」が必要になってくるわけです。
藤塚
藤塚
この研究で私たちが目指しているのは、複数台のドローンのネットワーク化と言えるかもしれませんね。土屋先生の研究室では、MFLPで飛ばすための小型のドローン開発や、複数台のドローンが作業を行うためのシミュレーションにも取り組まれていますが、先生はこの研究にどのような可能性を感じていますか?
土屋
土屋
最近ではドローンもどんどん大型化していて、人が乗れる「空飛ぶクルマ」の開発が進んでいるんです。例えば地方の空港を拠点に、観光客が空飛ぶクルマを使って、アクセスしづらい観光地にドア・ツー・ドアでたどり着けるような、新しい交通手段が現実的になっています。航空管制上、従来の航空機と共存させるための新しいルールが必要となってきますが、そうしたことを考えるにあたっても、今回の研究で得たドローン制御の技術が応用できるのではないでしょうか。