テレワーク住宅WG

ワークライフ・インテグレーションに適した住環境の構築

研究リーダー
東京大学 生産技術研究所 准教授:
本間 健太郎 /
三井不動産 イノベーション推進本部
産学連携推進部:西 瑠衣子

コロナ禍をきっかけに在宅ワークが普及する中、スペースや間取りが限られた住空間に勤務機能が無秩序に流れ込むことで、生活や仕事に支障が出るケースが増えています。そうした課題を解決しようと、三井不動産の西と東京大学の本間准教授が連携。「ワークライフ・インテグレーション」をコンセプトに、家事や子育てをしながらでも働きやすく、生産性や創造性を高めることができる住空間の設計・実証を行っています。

切り離すのではなく、融合させる。仕事と生活の質を高める住空間を社会へ
  • 西 瑠衣子

    三井不動産
    イノベーション推進本部
    産学連携推進部

  • 本間 健太郎

    東京大学
    生産技術研究所

きっかけは、在宅ワークによって発生していた住宅課題

西
西
今回の研究は、在宅ワークが急速に普及する中で、都心のマンションで発生していた「仕事に集中できない」「家族の声が入ってリモート会議がしづらい」といった問題をどうにか解決できないかということで、私から本間先生にご相談させていただいたのが最初のきっかけでしたね。
本間
本間
はい。研究を始めるに当たっては、在宅ワークそのものの課題からもう一歩踏み込んで、家事・子育て・介護をしながらでも働きやすく、生産性や創造性を高められる住空間を作るという課題を設定しました。具体的には「環境を変えられるワークスペース」と「仕事が捗るキッチン」の設計・実証を行っています。

ワークライフ・インテグレーションに適した住宅とは

西
西
これまでは、仕事と生活の両立というと、「ワークライフ・バランス」が重視されることが一般的でしたが、最近では、自己実現の一つとして働きたいというニーズもどんどん高まっています。そうなると、生活と仕事を切り離してバランスを取るのではなく、生活に仕事を融合させてグラデーションを作っていくことが重要だということで、「ワークライフ・インテグレーション(仕事と生活の融合)」というキーワードを設定しました。今回の研究は、このワードを体現するものになりそうですね。
本間
本間
そうですね。例えば、「環境を変えられるワークスペース」は、リビングとの仕切りを従来の壁やウォールドアではなく、特殊なフィルムを貼ったガラスにして、透明モードと不透明モードをグラデーショナルに切り替えできるようにしています。また、リビングから入ってくる音もある程度調整可能なので、「リビングにいる子供を見守りつつ、静かに仕事をしたい」「リビングが見えない個室で仕事をしたいけど、子供の声は聞こえるようにしておきたい」といったニーズに応えることができます。
西
西
「仕事が捗るキッチン」は、従来の「料理をするためだけのキッチン空間」を変える新たな挑戦だと思います。この挑戦には、どのような可能性を感じていますか?
本間
本間
「仕事が捗るキッチン」では、料理と仕事を必要に応じて切り替えて気分転換できるだけでなく、料理をしながら、あまり集中しなくてよいWeb会議に参加したり、子供を見守ったりできるキッチンを目指しています。加えて、キッチンに立つ人の創造性にも着目して研究を行っています。例えば、半ば無意識で作業できるほど慣れた料理をしながら、企画を考えるといったクリエーティブな仕事を行うと、アウトプットの質が上がる可能性があるんです。これは、シャワーを浴びたり散歩をしたりといった受動的な活動をしていると、脳内で「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる回路が活性化し、思わぬひらめきが生まれやすいという仮説に基づいています。そうした「ながらワーク」によって生産性と創造性を高めるキッチンを作っていこうということで、現在、実証を進めています。

「環境を変えられるワークスペース」「仕事が捗るキッチン」イメージ図

住む人のQOLを向上させ、社会課題解決にも貢献する

西
西
今回の研究では、本間先生が所属しているDLXデザインラボにも参画していただいて、等身大のモックアップを段ボール素材で作っていただきました。民間にはない手法なので新鮮でしたし、最初にプロトタイプを作って改善案をすぐに反映するアジャイル方式には非常に刺激を受けました。アカデミックな実証を行っていただけるのも、コラボレーションならではの魅力を実感しています。
本間
本間
われわれとしても、西さんからこうして社会的な問いを投げ込んでいただけるのは非常にありがたいです。私は研究だけでなく建築の設計も行っていますし、DLXデザインラボも社会課題に取り組んでいますが、やはり大学人なので、社会の現場との触れ合いには限界があります。ですので、提案するアイデアを現場の声に照らしてブラッシュアップしてもらえるという点でも助かっていますね。

等身大モックアップ

西
西
本間先生の目線から見ると、ワークライフ・インテグレーションに適した住宅が普及した場合、人々の生活や未来の社会に対してどういった影響があると思いますか?
本間
本間
まずは、お住まいになる方のQOL(Quality of life:生活の質)が上がること。それから、育児や介護を理由に、働くことを諦めざるを得なかった方々が働けるようになることが挙げられます。さらに話を進めて、仕事の内容によっては現在のオフィス以上に生産性や創造性を高められる住空間を作れた場合、在宅ワークがさらに普及する可能性があります。そうなると、オフィスや住宅の空間的・時間的な分布が大きく変わり、都心部の過密や通勤ラッシュの緩和、さらにはCO2排出削減などにも貢献できるかもしれません。三井不動産と連携しているからこそ、研究をスピーディーに形にし、さまざまな方の生活を大きく変えることができる。その点にも価値と期待を感じながら、実証を進めていきます。